Macを単にラックに実装しただけではない【特集】

”データセンターでAppleハードウェアを稼働させるMacStadium。それは驚くほど実用的なものでした“

「 プライベートクラウド でAppleのハードウェアを使用する必然性は通常ありません。ただし必要とする場合を除いて。」

MacStadiumの chief revenue officer であるShawn Lankton(ショーン・ランクトン)氏は、彼の会社が存在する理由について正直です。コスト、 レイテンシ 、サービス規模全てにおいて一般のコロケーションベンダーと競合することは到底できません。代わりに、彼は非常に限定されたニッチ需要をターゲットにしようと考えています。「私たちは、Appleが彼らの顧客の為のMacインフラ環境を実現するよう要求しているから存在しているのです。 そして、これは私たちが呼び掛けた訳ではなく、問題を解決しようと努力している一つの取り組みなのです。」

「私たちは、Macをより簡単かつ大規模に稼働させる為のテクノロジー、インフラ構成、知見やベストプラクティスを見いだしました。」

アップルを必要とする時

Xcodeアプリ開発企業など、Mac OSの使用を必要とする企業を対象に、MacStadiumは、5つのデータセンター(アトランタ、ラスベガス、シリコンバレー、フランクフルト、ダブリン)で数万台のMacが実装されているサーバーラックを運用しています。主にMacStadiumは、EquinixやZayoのデータセンター内のプライベートスイート設備を利用していますが、ダブリンのケッペルサイトでは小さな設備を所有しています。

「近い将来にはアジア地域に進出し、さらなるプレゼンスを確立する為の拠点を立ち上げる計画があります。」とランクトン氏は言います。「しかし、優れたユーザ体験をするのに顧客はサイトから80km以内にいる必要はありません。 ユースケース がレイテンシに依存しないためです。

Mac mini – MacStadium

「我々のデータセンターにビルドやテストジョブを送信する場合、例えば3分で終わったり、あるいは3時間のジョブになる場合もあります。したがって、データセンターへの転送にさらに数ミリ秒かかったとしても、パフォーマンスやユーザーエクスペリエンスには影響しません。」

MacStadiumの製品管理&セキュリティ部門のVPを務めるKevin Beebe(ケビン・ビービ)氏はDCDに対し次のように述べています。「我々はビジネスとして、ベアメタルのMac miniとMac Proを提供することから始めました。その後製品の進化に伴い、仮想化に取り組み、Mac OSおよびAppleインフラストラクチャをVMwareでサポートするイニシアチブを主導してきました。」

「過去2年間で、当社の収益は企業向け市場で急成長しました。現在の収益の70〜80%はその企業顧客からのものです。」

顧客は標準的なデータセンター機器としての信頼性、コンプライアンスやセキュリティ基準を求めてきます。しかし主にデスクトップ用途として設計されているコンシューマーデバイスに頼らざるを得ないため、これにはそれなりの困難を伴います。

Macが持つさまざまな雰囲気を維持しつつ展開するために、MacStadiumは独自のラックを設計しています。当初は、「高さ10フィート(約3m)、幅2フィート(約60cm)の全く非標準のフルカスタマイズラックに多数のMac miniを実装していました。」とランクトン氏は言います。「これらのラックにはまだ多くのお客様用機器が配置されていますが、2018 Mac miniやMac Pro、および以降すべての製品からは、標準の19インチラックに適合する設計を行いました。これにより、導入を容易にし、より迅速に展開出来るようになりました。」

Proのデザイン

現在、同社で最も人気のあるデバイスは、今日でも最大の販売数を誇る2013 Mac Proです。残念ながら、円筒形のデザインは、一部の人からは「ゴミ箱」と貶すような発言もあるように、簡単にラックにマウント出来るシロモノではありません。

「四角い穴に丸いペグをどうやって入れようか?そこで我々はカスタムで設計し製造したSled(ソリ)を用意しました。それから、一つの1GbEポートや電源しか備えていないコンシューマー向けデバイスにエンタープライズ要件に見合うアップグレードを施しました。例えばVMwareのような ハイパーバイザー 上では、デュアルイーサネット、デュアル SAN ファブリック接続、二重化電源を備えたエンタープライズサーバーのように動作するようにしました。

Mac Pro Wall – MacStadium

Appleが2018年に新モデルをリリースした際、同じ筐体構造やサイズを維持してきました。それを見て、「まあ特に大きな設計変更ではなかったので、多くの設計変更は必要でないはずだろう。」と思っていたとビービ氏は述べています。

「しかし、実際は電力や温度管理について大きく異なり、またネットワークインターフェースも1GbEから10GbEに更新されていました。そこで、設計中であった新しいラック用に、Cisco Nexusの リーフ&スパイン型 アーキテクチャを導入しました。最終的に、多くの関係者が想定していたよりもはるかに大きな骨折り作業になりました。」

ランクトン氏は次のように補足しています。「更にポートも別の場所に配置されており、エアフローの吸気口と排気口も別の場所でした。冷却や電力に関する要件は設計と大きく異なりました。結局もう一度ゼロから再設計しなければならなくなり、しかもおよそ2か月以内に新しいラックを展開する必要がありました。」

同社は、コンピューターがディスプレイと一体化しているオールインワンマシンのiMac Proにおいても同様のジレンマに直面していました。「これは、5Kディスプレイの悲劇的な無駄遣いです。データセンターでこんな構成を組むのは誰も見たことないでしょう。」とランクトン氏。構成はというと、24台のiMac Proを標準の19インチラックにマウント、2台のユニットは一つに束ね、スクリーンは向かい合わせた状態で無効にしています。

「これがAppleハードウェアを扱う上でのひとつの現実です。」とランクトン氏は言います。「我々は在るものをただ手に入れるだけ。そして、Appleのハードウェアをカスタマイズしたりするようなことはしません。Appleは、彼らが作ったハードウェアを、我々がそのまま忠実に使ってくれるものと信じています。」

Appleによるコントロール

そこに、MacStadiumのビジネスモデルにおける潜在的な最大の弱点があります。もちろんAppleの喜びには繋がるでしょうが。「我々はiMacの画面を実際に取り外し、内部コンポーネントのみをラックマウントする案についてAppleに提案しましたが、彼らは眉をひそめました。このような構成をAppleがサポートする事はないでしょう。」と、ビービ氏。

おそらくお互いがまだアンバランスな関係性であり、Appleの方が力を持っている事は事実ですが、MacStadiumは恐れることは何もないと確信しています。Appleはエンタープライズ向けのインフラビジネスからは外れており、競合する必要はありません。MacStadiumの存在により、企業はアプリを開発し、Safariでテストを行うことが容易になります。これを理解したのか、Appleは2018年10月のイベントでMacStadiumの存在を強調していました。

ラックマウントされたiMac Pro
– MacStadium

「Appleがどれだけ私たちをサポートしてくれるのか、または認めてくれるのか?という疑問が常にありました。多くのお客様でさえ、MacStadiumまたはMacのホスティング会社を使用するのをためらっています。Appleは、非常に厳格な企業ライセンス契約を締結しています。しかし現在、彼らは私たちがしていることを正確に認識しており、そして受け入れられていることも確認できています。」

MacStadiumの多くのスタッフにとって、イベントのステージ上でのランクトン氏の発言は驚きでした。「Apple社内と同様、我々も何もAppleからの(新製品に関する)事前情報は知らされていませんでした。」「Appleの組織内にも前もっての情報を知っている人間は1人か2人程度しか存在しません。もちろんMac miniの写真を撮るために我々のデータセンターに訪れたカメラクルーでさえも。」

今年6月に開催されたAppleの開発者イベント(WWDC)でも、例によって秘密はベールに包まれていました。「Appleチームからの事前のヒントも一切ありませんでしたよ。」と、カンファレンスが終わった数日後にランクトン氏はDCDに語っていました。イベントで、Appleは新しいMac Proを発表しました。これは数年ぶりのメジャーチェンジです。

最大28コアと1.5テラバイトのメモリを搭載したXeon CPU、更にAMD Radeon Pro Vega II GPUを搭載した新しいMac Proは、まさに高価な長方形の形をした獣のようです。

「おそらく最上位モデルは35,000ドル(約370万円)以上の費用になるかと予想できます。」とランクトン氏は言います。「これは明らかに非常に印象的なマシンです。」

また、Appleが設計した4Uラックマウントを可能とするバージョンも発表されました。では、MacStadiumはどうなるのでしょうか?「だれでもMac Proをデータセンターに設置できるようになります。」とランクトン氏は言います。

「私たちが際立っているのは、Mac Proを構成する方法を既に知っており、それを展開するサプライチェーンを持ち、Macの専門知識を持つスタッフを抱えており、そしてMacをクラウド上に展開する方法を知っていることです。それにより顧客はMacをただ単にデータセンターに置くだけではなく、真にそのインフラをコードとして扱うことが出来るようになるのです。」

ラックを超えて

同社は、今年の後半にMac Proを入手するまで(その他の全ての人々と同じく)、そのラックマウント型システムに変更を加える必要があるかどうかを知ることはできません。「もし十分なネットワーク接続を提供可能な拡張モジュールがあり、電源モジュールが我々の冗長電源システムに接続できるようであれば、独自の処理を行う必要はないかもしれません。」とランクトン氏は言います。「しかし、単なるラックマウント型サーバーとエンタープライズ対応サーバーには大きな違いがあるのです。」

「ラックに入れることができる“長方形のもの”はすべて、それを実際に”エンタープライズ対応マシン“と呼ぶ為には完全な冗長性とサポート性が要求されます。したがって、我々はその為に必要なアップグレードを行うでしょう。」

同社はこの新システムの展開に関し一定の関心は持っていますが、同時に2018年にリリースされた全てのMacに影響するT2セキュリティチップの問題にも悩まされています。

Appleのカスタマイズ半導体チップであるT2は、LinuxやVMware ESXiを含むAppleが署名していないオペレーティングシステムの実行を禁止しています。

「またこれらのデバイスはいずれもVMware認定を受けていません。」とBeebe氏は述べています。「AppleとVMwareが過去に遡り、直接連携を取っていなかったためです。これを解決するために私たちはAppleを打ち合わせに連れて行こうとしています。これを成し遂げるには我々は仲介者を演じなければなりませんでした。」

これが、2013 Mac Proが依然として同社で最も人気のあるデバイスである理由です。

「VMwareをハイパーバイザープラットフォームとして最初から使用してきましたが、最近では、Ankaと呼ばれる新しいMac専用のハイパーバイザーをサポートし、Orkaが次に来ます。」

Orkaは、 Docker と Kubernetes テクノロジーに基づいて開発されたMacインフラストラクチャ専用の仮想化レイヤーですが、現在は彼らの社内でのみ利用しています。「これの真の目的は、すべてのアプリのビルドをXcodeで行うというAppleの要件に適合しつつ、見た目も使い心地もできるだけ汎用的なインフラストラクチャを必要とするユーザー向けの環境を構築するという事です。」とランクトン氏は言います。

「私たちがやりたいことは、お客様がそのインフラストラクチャ・レイヤを可能な限り抽象化できるようにすることです。これにより、iOSやMac用アプリのビルドとテストが、Androidやバックエンドサーバーコードなどとますます同じような環境で行う事ができるようになるのです。」

「我々の顧客は、Macをただラックに入れるだけでなく、Macをクラウドに入れることを望んでいるのです。」

Data Center Dynamics

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